人の話を聴くということ

本当に人の話を聴くのに必要なことと

メタアウトカム(肯定的意図)

生徒Y「先生。部活やめます」肩を落とし、うつむいて目線も合わない。

Yはテニス部部長候補、来春、先輩が引退するという時期にある。先輩方と上手くいかないということを何度か訴えてきたことがある。

教員A「うん。部活やめる?」 ・・・Yの言葉を繰り返す・・・

    ・・沈黙・・・2分間・・静かにYの呼吸に合わせる。

生徒Y「部活のこと考えると辛くて、辛くて涙が出てくるんです。だから、もうやめたいし、学校だってやめたいんです。」

・・・・涙ぼろぼろ・・・

教員A「うん。うん。部活のこと考えると辛くて涙がでて、学校も辞めたいくらいなんだね。」

  悲しい顔で、うつむき、視線は外して・・Yに合わせる

生徒Y「はい。休み中(彼女は足の故障で1ヶ月部活を休んでいた)ずっと考えてて・・・いつやめようか、いつ言おうかって」・・・・・・・・・①

    ・・・涙ぼろぼろ・・・

教員A「休み中、ずっと考えて休めなかったんだね。それは、辛かったね」

生徒Y ・・・号泣・・・・5分間・・・ひっくひっく・・・・・・・②

教員A ひっくひっくに合わせながら呼吸。

教員A「テニスも嫌いになったの?」目線をあわせる。

生徒Y「いえ! テニスは大好きです。(目線が合う)テニスなしで生きていけるのかなって思うこともあります。でももうそう考えることも嫌なんです毎日、毎日、眠れなくて1日中そのことで頭がいっぱいなんです。」・・・③

教員A「テニスは大好き。でももうやめたい。部活やめることでYは何が得られるのかな」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・④

生徒Y「考えなくてよくなる。部活のみんなにも会わなくていい」

教員A「そうするとどんな良いことがあるの?」・・・⑤

生徒Y「みんなから嫌われているんじゃないかって考えなくていいし、テニスも勝てないって考えなくていい。」・・・・・・・・・・・・・・・・⑥

教員A「本当はどうしたかったの?」・・・・・・・・・・・・・・⑦

生徒Y「・・・本当は・・?本当は中学のときみたいに部活のみんなと仲良くしたかった!テニスでも勝てたし楽しかったし、今は、今は・・・みんなの目が怖いし、テニスもどんどん勝てなくなって・・・中学の時に戻りたい!」

・・・・・・・・・・・・・涙ぼろぼろ・・・・・・・・・・・・・・⑧

教員A「中学のときは何がよかったんだろうね?」・・・・・・・・・・⑨

生徒Y「中学の時は何でも話せる先輩や友達だった。先輩なんだけど思ってることを言えたし、みんなで部活やってるって感じだった。テニスは別に楽しけりゃいいやってペアとやってたら勝ってた。」・・・・・・・・・・・・・⑩

教員A「そういう風になれたら、テニス続けられるかな?」・・・・・・⑪

生徒Y「はい。でも高校じゃ無理なんです。中学のこと引きずってたらだめだって親にもよく言われるんですけど・・・だめなんです。忘れられないんです。中学の時のこと・・・泣く・・・・」・・・・・・・・・・・・・・・・⑫

教員A「楽しかった中学時代の事、大事にしようよ。忘れるんじゃなくって、高校で中学の時みたいな仲間を作れたとしたら、どう?」・・・・・・・⑬

生徒Y「中学の時のこと忘れなくていいんですか?

・・・・・・・・びっくりしたようす・・・・・・・・・・・・・・・・・

教員A「逆にいっぱい思い出して、そういう部活仲間にしていたらいいじゃない?意外とみんなそんないい中学の思い出がないのかもよ。見たことないものは作れないから。見たことあるYがリードしたらいい。頼むよ、部長!」・・⑭

生徒Y「・・・先生!もう一回考えてみます。」さっぱりした様子

教員A「そうか。また、来週のこの時間に話そうか。待ってるよ」

まずは、相手の気持ちを受け取ります。①で足の故障で部活を1ヶ月休んでいた間、部活を止めることを考えていたことに対して、自分の考えをいれずにそのまま聞いていきます。実は、人が人の話しを聞くことの難しさがここにあります。

部活を休んでいた間中、顧問として心配をしていたり、彼女のことを気にかけている時間が長いため、彼女の口から実は止めたかったという話を聞くと、裏切られたような気になり、彼女に対して怒りの感情さえ湧いてしまいます。

また、部活は止めるべきではないという価値観が聞く側にあると相手の言わんとすることが理解できません。これは認知療法でいうところのべき思考というもので相手を理解することを妨げます。相手との会話はいかに自分の意見が正しいかを検証するための反対意見の交換の場でしかなくなってしまいます。

これは、ミスコミュニケーションと言われ、話をしても相手とのラポール(信頼関係)は切れていきます。ここでのミスコミュニケーションは相手の言葉を聴く変わりに、自分の価値観である、内的な会話を聞いていることが原因と言えます。次に内的な会話を聞きながらでは相手の言葉を聴くことがができないと言う例を上げます。

生徒Y「先生。部活やめます」肩を落とし、うつむいて目線も合わない。

教員A内的な会話

「なんだと?どれだけ心配したと思ってるんだ!足を直すためだからと、私も部員も苦労して、お前のいない穴を埋めてきたんだぞ!その気持ちを裏切る気か!こっちの気持ちも考えずに、毎日そんなこと考えてたのか。」   

内的な会話とはいわゆる「心の声」です。ここでは、「先生。部活やめます」の言葉を聞いたとき、「こんなに心配させてどういうつもりなんだ!しかも止めるなんて途中で投げ出すべきじゃないし、そんな奴はいい大人になれないぞ。」

といった「心の声」ならぬ内的な会話自分の頭の中でしている可能性があります。つまりこれが、自分のものさし(価値観、考え方)で話を聞いてしまうことの原因です。

これでは、相手のペースに合わせるどころか逆に説教などをして、信頼関係が壊れてしまいます。せっかく相談しに来た生徒が「この人に話すんじゃなかった。」と後悔することになるばかりか、部活を止めていくことを応援しているようなものです。

ですから、自分の価値観をいれずに相手の言葉を受け入れていくことが大切になります。聞きたい様に聞くのではなく、「この人はそう考えているんだな。」という立場で聴くのです。聞くことを通して、相手の気持ちを聴くのです。

聴くに徹すると相手の言いたいことが見えてきます。彼女は②のように休んでいた間中、ずっと部活を止めるか、どうするかを考えていて休めなかったのです

そう、周りからすれば彼女は休んでいたのだけれど、彼女自身は気が休まらなかったし、実際は辛かったのです。辛かったことは彼女の表情、態度でわかります。1ヶ月も休んでいて休めなかったなんてことは、ありえない。と思いながら話を聞くと、相手の言っていることが言い訳にしか聞こえないし、辛そうな表情や態度も見過ごしてしまう可能性があります。③では毎日、毎日眠れずそのことで頭がいっぱいなのだとも言っていますから事実かなり精神的にも参った状態であると言えるでしょう。

まずは、相手の話を自分の価値観を入れずに聞き、解ろうとします。その子がそう感じたり、どんなことを見たり、聞いたりしたことでそんな風に考えているのかを理解しようとします。

そうした上で冷静になり、④のような質問をしていきます。④の質問はメタアウトカムというスキルで人の心の深層部にある無意識を引き出します。メタアウトカムとは肯定的な意図とも呼ばれ、全ての行動の底には肯定的意図があるという考えです。

肯定的意図は、そうすることで何が得られるのか?と質問することで無意識の目的が引き出されることをいいます。社会的に受け入れにくい行動に対して、メタアウトカムを聞いていくとたどり着くのは、安心だったり、安全だったり、とその行動をとる真意が聞けます。

この場合、部活を止めることで得られるものは、「考えなくてよくなることと、部活のみんなと会わなくてよくなる。」ことと答えていますが、この子の表情や態度から、なげやりな言動と私には映り、「ほんとうかな?」という感じを受けたので(言っていることと表情、態度が一致しない感覚を不一致と呼びます。)

再度、そうすることでどんないいことがあるの?と更にメタアウトカムを聴いていきます。(⑤の質問)すると、⑥「みんなに嫌われているんじゃないかってテニスも勝てないって考えなくてもいい」と彼女は話していますが、これも一致してない感じがしました

そこで、⑦「本当はどうしたかったの?」と聴くことで、相手の真の目的が理解できることがあります。この問いの答えとして、「本当はみんなと仲良くしたかったし、テニスも勝てたし」と言っており、この子の正直な気持ちがでてきました。そして、中学の時に戻りたいとも言っています。⑧

ここでも、自分の中の価値観であるべき思考(昔のことに逃げるべきじゃないとか、過去にこだわるべきじゃない、など)に耳を傾けず、彼女の表現のままを聞いていくことが大事です。いいときのことをNLPではリソースと呼び大切に扱います。

とかく、人間は悪い時のことを思い出しては、今度はこうしようとか、ここが悪かったというような考え方をしがちで、悪いことや上手くいっていないことに焦点を当てる機会を多く持ちます。しかし、かなりの改善をしたりということなしでは、一度上手くいかなかったことは、上手くいかない原因があり、今後も上手くいく可能性は少ないと言えます。

そして、上手くいかなかっ原因を分析するより、NLPでは上手くいってきたことに焦点を当て原因を見つけ、それらを活用せよと教えます。この考え方が私は大好きで、特に日本人に足りない考え方であると思っています。

しかし、実際に多いのが、上手くいかなかったことに焦点をあてる方法です。が、これは得策ではありません。上手くいかなかったことをくよくよしたり、それを元に、自分を責めてみたところで、何の解決にもなりません。責めていること自体が謙虚な姿だと勘違いしている人も多くいます。自分を卑下したり、貶している間は実は何のアクションも起こしていませんから、問題解決には至りませんし、自分を痛めつけているため、解決するエネルギーすら残っていません。

大切なのは物事を冷静にニュートラル(車のギアでの例えで、中立な見方をするという姿勢)に捉え、対処していく姿なのです。そこで、お勧めしたいのが上手くいっている部分に焦点を当て、原因を見出し活用する方法です。

⑧で、中学の時に戻りたいといっているところに焦点を合わせ、上手くいっていた原因を探していきます。⑨「中学の時は何がよかったんだろうね?」という質問で、相手のリソースにアクセスします。

すると、⑩の返答で「何でも話せる先輩や友達の存在や、テニスも楽しくやっていた」ことが引き出せました。そして、⑭で上手く行っていた条件をそろえることを薦めると、「もう一回考えてみます。」との行動変容につながっていきました。

⑥の「嫌われているんじゃないかって考えなくていいし、テニスも勝てないって考えなくていい」と言う言葉の肯定的な意図は、好かれたいし、テニスで勝ちたいということだったようです。

考えがまとまったところで、過去に上手く行っていたやり方(リソース)や仲間のことを思い出させいい気分にさせ、未来のことをイメージさせていきます。(フューチャーペース)⑪、⑬で中学の時のように成れたらどう?と意識を未来に持っていくことで、落ち込んで泣いていた彼女の状態は、一瞬にして、パッといい状態に変わり、行動変容につながったと考えられます。

相手の言葉を自分の価値観を入れて聴くのをやめ、否定的な表現や、行動の根底にある意図を引き出すこと。相手のペースに合わせつつ、リードしていくことの有効性をお伝えしました。ぜひ活用し意欲を引き出して行きましょう!

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