タップエクササイズ

 
  ~客観的情報収集の訓練~

私の看護学校のクラスでは、タップエクササイズというスキルで客観的情報収集(Oデータ)の訓練をしています。

なぜなら、病院実習で患者さんの観察をする際、正確な情報が必要不可欠だからです。しかし、学生は主観的な情報収集になりがちで、なかなか客観的な視点を教えることが困難でした。

そこで、このタップエクササイズが登場しました。やり方は簡単ですので、是非やってみてください。

タップエクササイズ~方法~

1 役割を決めます。Aさん Bさん Cさん 
Aさん 観察後、事実と推測を伝える役
Bさん 観察される役
Cさん 2人を観察し、Aさんにフィードバックをする役

2 AさんはBさんをじっくり観察し次の順番で事実と推測を時間毎に繰り返し、Bさんに伝えるという役割です。CさんはAさんが事実の1分間のなかで、誤って憶測をいってしまった時に、トンと肩をたたき(タップ)教えるといった役割です。

3 方法

1 事実 1分
2 推測 1分
3 事実 1分
4 推測 1分
5 事実 1分
6 推測 1分
7 事実のみ、推測のみの会話 1分ずつ (看護学生バージョン)
8 未来ペース「この気づきが病院実習でどんな風に役立っているか」(看護学生バージョン)


事実とは

○ 「Bさんは椅子に座っています。メガネをかけています。手は膝の上にあります。」
× 「Bさんはちょっと髪が長い。ピンクっぽい服を着ている。少し足を開いている。」
下線の部分は事実ではなく、観察者の主観で差が出てしまう表現の仕方です。

ちょっとも少しも人によって基準が違うからです。ですから、この様な表現が出た時にCさんはAさんの肩をトンとたたき(タップ)知らせます。

するとAさんは自分があいまいな表現をしていたことに気づき誰でもわかる表現にして言い直します「少し足を開いている」を「私の拳1つ分開いている」「ちょっと髪が長い」を「A さんの髪は肩まである」という風に具体的に表現させるようにします。


普通の職業の方々ならば、このくらいの具体的な表現ができればよしとしますが、私の対象は看護学生が多いため、定規やメジャーを使わせより具体的に数値化させるように工夫しています。


看護の場面では、「ふくらはぎに少しむくみがある」という観察では不十分なので、定規を使わせ「ふくらはぎは0cmで親指で押すと痕が残る」という風に実際の看護師の観察で行うようにさせると、

なるほど!こういうことか!と納得いき、実習の場面の客観的情報(Oデータ)の収集と表現が上手にできるようになり、楽しく、しかも確実に観察の技術がアップします


そして、推測の1分間では、事実ではないことを話していきます。


○ 「Bさんは喉が渇いてきました」「Bさんは次は自分の番だなと思っています」「Bさんはそろそろお腹がすいてきました」
× 「Bさんは喉が渇いたと思っていると思います」「Bさんはお腹がすいてるんじゃないかな?」

推測のコツは主語をBさんにすることです。「思っていると思います」では思っているのは観察者ですからこんな表現がでてきたら、Cさんの出番でAさんの肩をトンと叩きます。

ここでもBさんのことをよく知っていると推測しやすく時間が足りなかったり、推測がずばり当たったりというようなことが起こります。そして、学生は患者さんとコミュニケーションをとる際に事前にカルテなどから情報を収集しておくことの重要性を自分で悟り、「先生!だから、情報収集しなくっちゃなんだね!」と気づきます。

授業で何度、講義しても理解できない学生に対してとても有効な方法です。そして、事実が得意で時間いっぱい使って言える人と推測が得意な人と特徴が現れ、自己理解にもつながります

事実が得意な人は普段から、具体的な表現をすることが多いようです。推測が得意な人は想像力豊かで、話上手な人が多いようです。事実がよくて、推測が悪いという事ではありません。

大切なのは、今自分が、事実に基づいて話しているのか、推測で話しているのかに敏感になり続けるということです。エクササイズを体験してみるとわかるのですが、自分に合わない推測をされるととても嫌なものです。しかし、「これは、私の推測なのですが・・・」と、一言いわれると同じ推測を聞いても嫌な感じはなくなります。

逆に自分に合った推測ならば、なぜこの人はこんなに私のことを解るんだろう!と急速にラポール(信頼関係)が深まります。そして、事実のみの会話は車に例えるならハンドルの遊びがないようなもので実に味気ないものです。

こういった事を、私のクラスでは方法の7番「看護学生バージョン」(事実のみの会話で1分、推測のみの会話で1分)を追加して体験させ、学生自身に気づかせることにしています。

よくでる気づきとして、患者さんと上手くコミュニケーションが図れないという学生が、「事実のみの会話で終わっていた」ということや、看護師さんに患者さんの情報を報告する時、「具体的でなかったり、推測が入っていた」というものです。

その気づきを基に、8の未来ペースで、「この気づきが病院実習でどんな風に役立っているか」を考えさせると、実習場で「患者さんの足のむくみをメジャーで測って、看護師さんに報告しています!!」という風に具体的になります。
苦手な報告という場面やコミュニケーションという捉えかたから、「こうやってみよう!」という風に意欲を引き出すことが可能になります。


私の勤務している看護学校では、職員研修でこのエクササイズを全員で体験することができたので、現在の教員会議では「これは、私の推測ですが、」とクッション言葉が入り、とてもスムーズなやり取りができるようになりました。

大抵の会議での発言は、個人の意見をさも、全体の意見である様に表現しがちです。
これは、WEメッセージと言われ、強烈なインパクトと影響力があります。反論しにくいため、強い主張をする人の意見が通りがちになり、会議が終わったら参加者のほとんどが、合意していないという結果になったりします。

そんなことの予防にも、この「私の推測ですが」は役に立ちます。要するに、このエクササイズで学んで欲しいことは、自分が今、事実を言っているのか、推測で話しているのかを常につかみスキルアップすることの大切さです。
それが、よりよい観察やコミュニケーションにつながっていくと言うことです。相手と本当の信頼関係を作るのに必要な、究極の姿は「自分を正確に保つこと」に尽きるといえるからです。

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